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「タワマン節税」封じを徹底試算 マンションに影響広く - 日本経済新聞

マンションの実勢価格と相続税評価額との間に大きな乖離(かいり)があるということから、「マンション節税」や「タワマン節税」の防止を目的とした新たな相続税の算定ルールの内容が6月に明らかになりました。今回はその内容と影響について考えてみましょう。

市場価格との「乖離率」を評価に導入

現在の相続税評価額の計算方法は、建物評価額(固定資産税評価額)に土地評価額(土地面積×共有持ち分×路線価等)を加算します。この方法はマンションに限らず一戸建ても同様です。この計算方法だと、高層マンションや高層階にある部屋のほうが市場価格は高くなるというマンションの特性が相続税評価額に全く反映されないという問題がありました。

一方、新たな評価方法案は次のような算式となっています。

新たな評価額案=現行評価額×評価乖離率×最低評価水準0.6

「現行評価額」は、現在の制度で計算した相続税評価額です。「評価乖離率」とは「時価(市場理論価格)÷現行評価額」を意味します。つまりこの式では、市場価格と現在の相続税評価額との差を補正するわけです。

さらに、最後に「最低評価水準0.6」という項があることからわかるように、マンションの相続税評価額を最低でも時価の6割程度とするのが狙いです。評価乖離率が1.67倍を超える場合は、相続税評価額が市場価格理論値の60%未満となっています。この場合は、市場価格理論値の60%になるよう評価額を補正します。時価の6割程度は一戸建ての平均的な水準とおおむね同じくらいだといわれています。

「評価乖離率」が1.67倍以下となる場合(現行評価額が時価より低いが時価の60%は超えるとき)は、補正せず現行評価額を新たな評価額とします。評価乖離率が1未満(現行評価額が時価より高いとき)となるものは、低い方の時価(市場価格理論値)そのものを評価額とすることになります。

「評価乖離率」はマンション階数や敷地持ち分も計算

ここでカギになるのが評価乖離率です。その計算式は次のようになっています。

評価乖離率=築年数×▲(マイナス)0.033+総階数指数×0.239+所在階×0.018+敷地持ち分狭小度×▲1.195+3.220

非常に複雑な式に見えます。一つ一つひもといて、この式の意味を考えてみましょう。

まず、築年数が1年増えると評価乖離率は0.033下がります。新しいほうが評価額は上がる(税額も上がる)ということです。築年数が経過してマンションが減価することを反映するために、かける数字はマイナスとなります。

次の2つの項はマンションの階数がポイントになります。「総階数指数」が1単位増えると、評価乖離率は0.239上がります。総階数が1階増えると、評価乖離率が0.00724増すことを意味します。総階数が高ければ高いほど評価乖離率は高くなります。これは、高層マンションほど一般に市場価格が高くなりがちであることを反映しています。

「所在階」は居室がマンションの低層階より高層階にある方が一般に価格が高くなることを反映し、1階上がると評価乖離率が0.018上がります。

続く「敷地持ち分狭小度」とは、マンション一室の面積に対して何倍の土地持ち分面積を保有しているかを示す指標です。例えば土地面積、建物延べ床面積がそれぞれ100平方メートルの一戸建てならば敷地持ち分狭小度は1となります。高層になればなるほどこの指標は小さくなりますので、引き算できる値も小さくなり評価額が上がり、税額も上がります。

なぜそのような計算になるかというと、築年数が建っても価値が変わらない土地の持ち分面積が小さいほど相続税評価額が低くなりやすいためです。マンションの総階数が高いほど1戸当たりの土地の持ち分面積が小さくなりやすく、タワーマンションの相続税評価額が低くなることが問題視されていました。そこで土地の持ち分面積が小さい方が相続税の課税上は有利になることを補正するために、この項でかける数字はマイナスとなっています。

5種類のマンションの相続税評価額

では、実際に新しい評価方法はマンションにどのように影響するのでしょうか。タワーマンションだけでなく、よくあるタイプの5種類のマンションを想定し、税理士法人アイアセットの税理士の石井力さんのご協力を得て、どのような影響が及ぶか検証してみました。まず各マンションの概要と現行の相続税評価額を試算した結果をまとめたものがこの表です。

Dのタワーマンションは、専有面積がAの大規模多棟型マンションよりも広いにもかかわらず、相続税評価額が800万円近くも低くなっています。都心の区にあり、築年数は浅く、所在階が高いことから、市場価格ではタワーマンションの方が高い可能性があるにもかかわらず、相続税評価額が抑えられています。

では、この5種類のマンションの相続税評価額を、6月に出た新たな案の方法で算出すると、どうなるでしょうか。下の表を見てください。

新評価額が現評価額の何倍になるかという倍率は、Eの郊外型低層マンションを除いて1倍を超えています。新たな評価方法が採用されればA〜Dのマンションは相続税評価額が上がることになります。

まず注目したいのは、やはりDのタワーマンションです。新評価額が現評価額の2倍を超えており、Aのマンションよりも高くなりました。Dのマンションで新評価額が採用されれば、相続税に対するインパクトはかなり大きいものになるでしょう。

それだけでなく、AやBのようなよくあるマンションでも評価額はかなり上昇することがわかります。古いワンルームマンションでも新評価額の方が現評価額より高くなりました。新しい評価方法はタワーマンションだけでなく、幅広いマンションの相続税評価額に影響を及ぼすようです。

一方、Eのような郊外型低層マンションは一戸建て同様、ゆったりと建築されていることから、新評価額は現評価額より低くなります。新たな評価方法は、これまで過剰に評価されていたものを修正するという意味もあるのです。

田中歩(たなか・あゆみ)
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。

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